グーグルの「脱クッキー」への方針転換、その背景と今後、旅行分野への余波を考えた【外電】

グーグル(Google)は、過去4年ほど、自社ブラウザのChrome(クローム)でサードパーティー・クッキー使用を止める予定としてきたが、先ごろ方針転換を発表。デジタルマーケティング関係者にとっては予想外の猶予となっているようにみえるが、実際はどうなのだろうか――?

サードパーティー・クッキーとは、利用者のあらゆるブラウザ履歴を長期間に渡り追跡し、各種データを収集したもの。ユーザーが見た全てのウェブサイト、オンライン購入したもの、オンライン上で記入した名前などの情報を集めることができる。

グーグルは2024年7月、たび重なる延期と代替手段の改修の末、サードパーティー・クッキーを廃止するのではなく、ユーザーの選択肢を充実させることでプライバシー保護への懸念を払しょくする方針を決めた。短期的には、広告主たちから歓迎を受けるかもしれないが、デジタル空間の流れがサードパーティー・クッキーの役割縮小へと向かっていることに変わりはない。

旅行関連企業も広告出稿者たちも、ここ数年、サードパーティー・クッキーなしでのオンライン顧客追跡に向けて準備してきた。グーグル自身も同じだ。誰もが自社によるファーストパーティー・クッキーを最大限に活かすと同時に、これ以外の代替手段を模索してきた。

グーグルが180度の方針転換を決めた背景には、検索の超大手企業を支える膨大な広告収入と、影響力の大きいステークホルダーも満足できる対応策作りの難しさがある。サードパーティー・クッキーは、少なくとも当面の間、世界で最も利用されているウェブブラウザ上では存続することになったが、デジタル領域で今後、どのような役割を担っていくのか、その未来はさらに不明瞭になってしまった。本稿では、今回の方針変更が意味すること、しないこと、そして何より、旅行広告戦略における示唆を考えた。

これまでの経緯と背景

サードパーティー・クッキーは長い間、デジタル広告を支える基盤となり、広告主がウェブ空間におけるユーザーの動きを把握できるようにしてきた。クッキーとは、小さなデータの塊のことで、ユーザーが使うデバイスに格納されており、そこにユーザー情報が収集されていく。

このうち、ファーストパーティー・クッキーは、ユーザーが訪問したドメイン側が集められるもので、ウェブサイト上でのユーザー体験向上などに役立てられる。一方、サードパーティー・クッキーは、ユーザーの訪問先ではない第三者サイトがユーザーに付けることができる。広告のパーソナライズ化を進める手段として重宝され、例えばブラウザ履歴をもとに、ユーザーが訪問した(自社以外の)サイトやアプリを広告出稿者が把握するなど、より詳しい人物像を知るのに役立ってきた。

こうしたデータは、ターゲット広告の作成、キャンペーンの効果測定、以前に商品やサービスに興味を示したユーザー向けのリターゲティングなどに利用されている。これまで30年近く、サードパーティー・クッキーのおかげで広告のエコシステムは成立しており、オンラインコンテンツの多くを無料提供する財源にもなっていた。

しかし、サードパーティー・クッキーが広告の精度にもたらす高い有効性は、プライバシー問題への懸念を高める結果になった。EU(欧州連合)による一般データ保護規則(GDPR)、カリフォルニア州の消費者プライバシー法(CCPA)などが施行され、サードパーティー・クッキーの透明性や、利用の可否を決める選択権を消費者に与えることが義務付けられた。

こうした法律によって状況は大きく変わり、例えば、すべてのウェブサイトに対し、ユーザーが各クッキーの使用可否を選択できることが義務付けられた。アップルの「Safari(サファリ)」やMozillaの「firefox(ファイヤフォックス)」など、利用者の多いウェブブラウザの中には、すでにデフォルト設定で、サードバーティ―・クッキーをブロックしているものもある。さらにアップルでは2022年以降、第三者アプリによるトラッキングには、ユーザーからの承諾が必要になった。

とはいえ、世界で最も人気のウェブブラウザはグーグルのChromeで、2024年7月時点でのマーケットシェアは64%。そのグーグル(アルファベット社)最大の収入源は広告だ。したがって、同社にとってサードパーティー・クッキーの扱いは非常に重要な問題であり、オンライン界隈における注目度もかなり高い。

サードパーティー・クッキー廃止の計画撤回をグーグルが決めた背景には、代替手段に位置付けられてきた取り組み「プライバシー・サンドボックス(Privacy Sandbox)」への不安もあった。具体的には、英国の競争・市場管轄当局(Competition and Markets Authority)が指摘した競争上の問題点や、IABテック・ラボが指摘した機能面の問題などだ。

テック・ラボは2024年、プライバシー・サンドボックスのタスクフォースがまとめた分析レポートを発表し、同サンドボックスAPIが広告の主要なユースケースを十分にサポートできていないとの見方を示した。分析対象となった計44のデジタル広告ユースケースのほとんどについて、サードパーティー・クッキーがなくなった後、グーグル・プライバシー・サンドボックスでは機能しないことが分かった。

これに対しグーグルは、サードパーティー・クッキーを使ったマーケティング戦法を一つ残らず再現し、同時にユーザーのプライバシー保護を大幅に改善するのは「現実的でない」と反論。より柔軟なアプローチで目標達成することを提唱していた。

だが最終的には、サードパーティー・クッキー利用の可否をユーザーの選択にゆだねることを同社は選び、その理由として、予定通りに進めた場合、オンライン広告に与える影響の大きさを挙げた。広告効果が低いエコシステムになれば、当然、広告収入の減少が予想される。こうした損失の可能性も、グーグルを揺さぶったのではないか。

現状が示唆すること

旅行関連の広告出稿者、なかでもデジタルマーケティング戦略においてサードパーティー・クッキーへの依存度がまだ大きいところにとって、今回のグーグルの方針転換は、少なくとも当面の間、サードパーティー・クッキーのデータは使い続けられるということだ。

今回の顛末は、広告ビジネスのより広範囲なダイナミクスについても、色々なことを示唆している。その主なポイントは以下の通りだ。

  • 最大のポイントは、サードパーティー・クッキーの代替手段はあるが、サードパーティー・クッキーが担ってきた役割をすべて肩代わりするのは不可能であるということ。
  • 規制当局からの厳しい視線とプライバシーへの懸念は、今後もなくならない。
  • グーグルは、法規制と広告主、両方からの相反する要求に対応できるよう、バランスをとることになるが、最終的に優先するのは自社の利益になる。

※この記事は、世界的な旅行調査フォーカスライト社が運営する「フォーカスワイヤ(PhocusWire)」から届いた英文記事を、同社との正式提携に基づいて、トラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したものです。

オリジナル記事:What Google's cookie reversal means for travel


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