日本人旅行者の海外旅行先として、不動の人気を誇るハワイ。教育旅行の目的地としての注目度も高い。特に、近年は新学習指導要領の柱である「探究的な学習」を、修学旅行をはじめとする教育旅行でも実践したいと考える学校が増えているという。
2024年9月に実施したトラベルボイスLIVEでは、ハワイからハワイ州観光局 日本支局 局長のミツエ ヴァーレイ氏が出演。教育旅行の受け入れ基盤となる現地の教育システムから対応可能なテーマまで、ハワイ教育旅行の特徴と取り組みを説明した。
「教材の宝庫」で、これからの時代に必要な力を養う
ヴァーレイ氏は、教育旅行の目的地を選ぶ上で「まず、目的地の教育や学校のシステムを理解しておく必要がある」と話し、日本とハワイの違いを説明。ハワイでは、米国の教育プログラムのベースであるSTEM教育に、創造性や柔軟性を養う「芸術」を加えたSTEAM教育をおこなっている。「小学校からアクティブラーニングや野外実習の時間を設定し、中学、高校では技術や科学などのコンペティションも多い。チームで課題を見つけて調査や議論をし、成果を発表するような教育に力を入れている」という。
ハワイ州観光局では、現地にこうした教育が根付いているハワイでの教育旅行を「エデュツーリズム」と名付け、「『教育旅行=修学旅行』ではなく、小学校から中学校、高校、大学はもちろん、大人向けの専門的な技能を身に着けるような旅行を提案している」(ヴァーレイ氏)。
3泊5日から短期滞在ビザ免除プログラム(ESTA)で滞在できる3カ月までのプログラムも充実しており、ヴァーレイ氏は「グローバル人材の育成や環境問題、世界の時事を自分ごと化する意識や異文化への理解促進を養う意味で教育旅行は重要」と、ハワイ教育旅行で期待できる効果を強調した。
では、具体的に教育旅行におけるハワイの優位性は何か。大きな特徴は、そのテーマの豊富さだ。
太平洋の中央に位置するハワイの地理的条件はもちろん、火山活動で誕生した島々、カウアイ島とハワイ島では、その誕生時期に500万年の開きがある。また、標高4000メートル超の山もあり、気候や植生も多様。歴史文化、民族の多様性から地質学、海洋学、環境学、天文学、さらには平和学習や近年注目されている医学、科学、観光など、ハワイが世界に誇るテーマは幅広く、「教材の宝庫」とヴァーレイ氏は自負している。
これに加え、1960年代から日本の海外旅行先として、旅行・航空業界とともに充実させてきた観光インフラがある。ヴァーレイ氏は「安心して様々なプログラムを開発できるのも、日本の旅行業界と歩んできた歴史があるからこそ。そういう意味で、協力体制も整っている」と話す。
SDGsの先進国
さらにヴァーレイ氏は、昨今のキーワードであるSDGsについて、「必ず教育と関わるものであり、SDGs関連の問いあわせは増えている。ハワイの環境保全に関する取り組みは早く、SDGs先進国といえる」と説明した。
SDGsは2015年のパリ協定で採択されたが、ハワイ州は1998年に「ハワイ気候行動計画」を発表。2008年には2050年に向けた「ハワイ2050サステナビリティ計画」を発表し、2014年にはハワイ版SDGsとなる「アロハプラスチャレンジ」を設定した。「アロハプラスチャレンジ」の目標に向けて現在も取り組みを進めており、地元の関連団体によるエデュケーショナルプログラムもある。
例えば、ビーチ清掃活動などをおこなう団体「サスティナブル・コーストラインズ・ハワイ」では地域の学校向けに、ビーチ清掃をして集めたゴミを分類し、そのゴミの影響を説明するアクティブラーニングを実施している。こうしたプログラムを日本からの教育旅行用にアレンジし、コーディネートすることができるという。
また、ハワイでは再生型観光(リジェネラティブツーリズム)に力を入れており、ハワイ・ツーリズム・オーソリティでは、デスティネーションマネジメント・スチュワードシップという部門を発足。地域が守りたいものを持続、または復元し、観光客にも理解をしてもらえるような、意義ある観光を広げるためのプログラム開発に補助金を提供している。
教育旅行もこの取り組みに関与する部分がある。地域コミュニティによる再生型観光プログラムは、研究機関や地元の団体が一緒になって、観光客も理解・体験できるものとして商品開発をすることが多い。「ただ体験するだけではなく、コミュニティと交流し、学び、考えるプログラムになっている」(ヴァーレイ氏)。
なお、再生型観光プログラムの補助金はほぼホテル税で賄われており、地元の団体は毎年必ずプランを立てて、申請をしている。コミュニティ管理を目的とする補助金プログラムも用意されており、観光との共存を適切に管理するためのプログラム作りもサポートしているという。
日本からの教育旅行での活用事例
では、実際に日本からの教育旅行では、どのような事例があるのか?
ヴァーレイ氏は、教育旅行のベストな事例は「様々な国の学生が、言葉がわからなくても一緒に体験し、感じること」といい、「International Coastal Cleanup Day(国際海岸クリーンアップデー)」の事案を紹介した。
2019年9月21日のInternational Coastal Cleanup Dayのタイミングに合わせてオーストラリア、ニュージーランド、日本の3カ国から15-18歳の中高生をアンバサダーとして選出し、ニュージーランドの環境保護団体Sea Cleaners(シークリーナーズ)の指揮のもと、ハワイ島南部のカミロポイントにて、2日間にわたり遠洋からの海洋漂流ゴミを回収。1日目は目視できる大きな漂流物を対象として清掃活動に従事し、2日目は同じ時間を費やしマイクロプラスチックを回収した。
実際に採取したゴミの分別、物量を調査し、後日地元ハワイの小中高等学校を訪問。自らの活動内容を地元の学生に向けプレゼンし、今後自分達が意識して取り組める環境活動につきディスカッションを実施した。
ニュージーランド、オーストラリアの学生に加え、日本からは京都の私立高校が参加。同校の生徒は帰国後、京都市内の鴨川の清掃を実施し、回収したゴミでウミガメのオブジェを制作。そのオブジェを、2019年のツーリズムEXPOジャパンのハワイ州観光局のブースで展示し、学習内容を披露するとともに来場者に向け環境保護活動の実績と必然性をアピールした。
また、社会人を含む学びの場としての利用もある。旅行メディアと連携し、同じ志を持つハワイの団体のサステナブルな活動を学び、コミュニケーションをするための“エデュツーリズム”を実施。現地の様々な団体の体験プログラムで交流をし、意識を高めたという。
このほか、文部科学省の「トビタテ!留学JAPAN」では、高校の教員向けの視察ツアーを実施。「時代にあった学習効果の高い探究型海外研修を教師が自らプロデュースする」をテーマに、ハワイの先住民族の文化・アイデンティティを守るための取り組みや、環境対策、サイエンスなど、様々なテーマのプログラムを視察した。
最後にヴァーレイ氏は、「内容の濃い教育プログラムとなると、大人数の修学旅行の形式は難しくなる。地元団体の規模にあった小グループに注力している」と説明。なかでも、姉妹都市との関係強化を図っていることを紹介し、「日本とハワイの長い歴史的な関係から、ハワイでしか体験できないプログラムも多い。特に、姉妹都市の自治体とは、より深い教育旅行のプログラムをツーウェイで作っていければ」と呼びかけた。
トラベルボイス代表の鶴本浩司は講演のまとめとして、「ハワイはレジャーデスティネーションの印象が強いが、教育旅行の側面で見ると素材が多い。そして教育相談員に対するプログラムも充実している」と言及。特に「非常に驚かされた」と指摘したのが、コミュニティとともに、プログラム開発をしていること。「住民が観光プログラムの提供や観光客の管理に携わる仕組みを作っているところも、印象的だった」と話した。
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記事トラベルボイス企画部