日本旅館協会会長の桑野和泉氏が、2025年を迎えるにあたって年頭所感を発表した。
桑野氏は、災害に強い業界にするため、地域での業種を超えた横のつながりに加え、行政、観光庁との縦のつながりを強固にしていく必要があると言及。平時からさまざまな関係機関と関わりを持ちながら、2025年も事業に取り組んでいくとした。
大阪・関西万博については、日本の文化を知ってもらい、インバウンドが戻っていない地域にとってチャンスであると同時に、オーバーツーリズム問題もさらに大きなものになると指摘。観光地において、歴史的建造物を大切に扱ってもらえない事例も出ている例をあげ、観光に携わる者として、その地域の歴史をより深く、正しく伝えていかなければならないと述べた。
発表された内容は以下のとおり。原文のまま掲載する。
2025年年頭所感 「今年こそ」
新年明けましておめでとうございます。1年のはじまりの日には、いつも新たな気持ちで「今年は去年よりももっといい年にしよう」と決意し、明るい1年間を想像して思いを馳せています。昨年、そんな決意をした直後に起きたのが、能登半島地震でした。
自然災害は、お正月でもお盆でも関係なくやってきます。「天災は忘れた頃にやってくる」のではなく、今はいつどこでもやってくる時代です。お盆シーズン直前に起こった宮崎県日向灘での地震と、その後発表された「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」もそのうちの一つです。昨年6月に会長に就任してから、災害への対応に頭を悩ませた半年間でした。
災害に強い業界にするためには、地域の中での業種を超えた横の繋がりに加えて、行政、官公庁との縦の繋がりを強固なものにしていく必要があります。その取り組みの一環として、昨年9月には私の地元である大分県 由布院にて「宿泊業界における観光と金融に関する全国懇談会」を開催いたしました。共催として九州運輸局、九州観光機構のご協力を得て、観光庁長官、中小企業庁長官、金融庁監督局長、九州の多くの金融機関の皆さまにご参加いただくことができました。さらに基調講演では菅義偉 元総理大臣からのビデオメッセージをいただき、「2030年までにインバウンド6000万人、消費額15兆円の達成に向けて官民一体となったさらなる取り組みが必要である」と力説いただきました。また漫画家・文筆家・画家として活躍されておられるヤマザキ マリ様にも基調講演、パネルディスカッションにご登壇いただき、温泉文化の素晴らしさについて講演していただきました。平時のときからさまざまな関係機関と関わりを持つことを重要視しながら、本年も事業に取り組んでまいります。
また今年4月には、待ちに待った「大阪・関西万博」が開催されます。いよいよコロナ前の2019年を大きく上回る数のインバウンドが日本にやってくることは間違いありません。多くの方に私たちの国の文化を知ってもらうチャンスであるのと同時に、オーバーツーリズムの問題もさらに大きなものになると思います。観光地において、歴史的建造物を大切に扱ってもらえないという事例も出ておりました。観光に携わる者として、その地域の歴史をより深く、正しく伝えていかなければならないと強く感じています。これはインバウンドに限ったことではなく、私たち宿泊事業者は「訪れるすべての人に地域の素晴らしさを伝える」という責務を担っているのだと思います。インバウンドが戻り切っていない地方にお客さまにいらしていただけるチャンスでもあります。各地域が交通に課題を抱えている現状にあることも承知しておりますが、ここは地域と一体となって、具体的な動きにしていく必要があると考えています。
災害に正しく備えること。そして宿泊業界が地方創生の担い手となれるように、地域とともに取り組んでいくことが最も重要です。「リョカン=RYOKAN」が世界共通語になる日に向けて、さまざまな活動を続けてまいります。
日本旅館協会
会長 桑野和泉