米国の人気ドラマ「ホワイト・ロータス」がもたらす観光への功罪、経済的恩恵の一方で環境への影響も

写真:ロイター通信

2021年に米国で初公開されたドラマ「ホワイト・ロータス」では、ラグジュアリー旅行でリラックスするためだけに1泊9000ドル(約133万円)を喜んで支払うエリート層を痛烈に批判することがテーマだった。

ところが、現実のロケ地は、階級の格差とアメリカ帝国主義の遺産が鮮明に示された場所となっている。今後、「ホワイト・ロータス」は、ドラマのテーマである特権階級への批判と、観光地の広告塔としての役割を両立していけるのだろうか?

シーズン1の舞台は、ハワイのマウイ島。シーズン2ではシチリア島がロケ地となった。贅沢な旅行を厳しく批判するドラマのはずが、現実ではラグジュアリー旅行の派手な宣伝となった。この矛盾は、先月公開されたシーズン3の舞台となったタイ・サムイ島でさらに顕著になっている。

シーズン3では、西洋の物質主義と東洋の精神性、特に仏教との衝突など、新しいテーマも描かれている。ある出演者は「私たちがやろうとしたのは、本物のタイ、つまり人々の美しさや文化を描き、タイへの好意的な関心が再び高まるようにすること」と話している。

番組放映の経済的影響は幅広く

このシーズンは、タイ国政府観光庁、フォーシーズンズホテルと提携して制作され、フォーシーズンズが撮影場所となった。タイ政府は、制作にあたって多額のキャッシュバックプログラムで対応。制作会社HBOは、様々なプランドと提携し、98ドル(約1万5000円)の香り付きキャンドル、48ドル(約7000円)の日焼け止め、325ドルのオーバーナイトバッグ(約4万8000円)、725ドルのドレス(約10万7000円)、4.50ドル(約670円)のフレーバーコーヒークリームなどを売り出した。

暗いテーマや人間性に対する冷笑的なテーマが多いにもかかわらず、この番組は明らかに、あらゆる分野のブランドにとってマーケティング手段となっている。

元々、「ホワイト・ロータス」は、コロナ禍中、隔離された場所で迅速かつ安全に撮影できることが条件となっていた。そこで、マウイ島が選ばれた。その舞台は、素晴らしい自然の美しさだけでなく、米国植民地主義とネイティブハワイアンの窮状など、探求すべきテーマも豊富だった。

ベルナルド氏によると、シーズン3は「東洋哲学と西洋哲学の探求」として構想されていた。最初の構想は、タイではなく日本だった。人口の90%以上が仏教徒であるタイに番組を移したことで、「宗教および哲学としての仏教を探求することができた」と話した。

タイの仏教と宗教観光を研究しているローズ大学の宗教学教授ブルック・シェドネック氏は、「サムイ島は『デトックスアイランド』のようなもの。裕福な観光客が仏教に関連する慣習を体験するために訪れる。飛行機から降りてくる人の多くは、ヨガマットを持っている」と話す。

フォーシーズンズにとって、「ホワイト ロータス」は、ドラマで死や放蕩行為が描かれているにも関わらず、紛れもなく強力なマーケティング ツールとなっている。同社は「ホワイト ロータス」の IP(知的財産権) を活用し、様々な仕掛けを実行することがてきる。最近では、ゲストが同社のプライベート ジェットで3つのシーズンのロケ地を巡るツアーも発表した。

米国の富裕層を対象にした調査では、ミレニアル世代の88% が「ホワイト ロータス」と「フォーシーズンズ」双方のブランドを知っており、71%がドラマで紹介されている施設を訪れる可能性が高いと回答した。フォーシーズンズのエグゼクティブバイスプレジデント兼CCOのマーク・スパイカート氏によると、サムイ島フォーシーズンズのサイトへの訪問者数は昨年比で600%近く増加しているという。ドラマではフォーシーズンズのロゴは使われず、背景として外観だけが露出しているだけにも関わらずだ。

ドラマ制作でも地元のニーズに合わせることが大切

タイにとって、「ホワイト ロータス」による観光客の増加は、経済的恩恵となるが、同時に環境への悪影響についての懸念も増える。サムイ島は、観光客の増加によって、すでに真水不足と埋め立て地の氾濫に悩まされていると話す地元住民もいる。

2000年に公開された映画「ザ・ビーチ」は、ピピ・レー島マヤ湾に1日5000人もの観光客が訪れる一大観光地に変える一因となった。その結果、湾のサンゴの推定80%が破壊。当局は最終的に数年間このビーチを閉鎖し、現在は立ち入りを制限している。

HBOは、サムイ島での「ホワイト・ロータス」の撮影による環境への影響について尋ねても、コメントしなかった。

一方、エグゼクティブプロデューサーのベルナルド氏は、タイでのシリーズ制作は慎重に行動することの大切さを学んだと話す。「自分の制作方法を押し付けないという謙虚な気持ちで臨まなければいけない。地元のスタッフやプロデューサーから学び、彼らのニーズに合わせることが大切」。これは、制作者だけでなく、観光客にとってもいいアドバイスだろう。

※ドル円換算は1ドル148円でトラベルボイス編集部が算出

※本記事は、ロイター通信との正規契約に基づいて、トラベルボイス編集部が翻訳・編集しました。

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