
世界的に観光需要が活況を呈するなか、有名観光地ではオーバーツーリズム問題が大きくなっている。欧米各地では観光税や入域人数制限、民泊抑制など抑制の動きが加速し、日本でも一部地域や時間帯で混雑やマナー違反による住民生活への影響、旅行者の満足度低下といった状況が顕在化し、持続可能な観光地づくりに向けた模索が続いている。
そこで観光産業ニュース「トラベルボイス」では、このオーバーツーリズム問題をあらためて整理。世界で起きている状況から定義、日本の現在地を紐解き、オーバーツーリズムを解決・抑制するためのレポートを発行した。本レポートのPDF版は無料でダウンロードできる(メルマガ読者限定、登録が必要)。このレポートに掲載している内容の一部を、抜粋で下記に紹介する。
「公害」ではない、地域コミュニティとの共存が課題に
あらためてオーバーツーリズムとは、「over(許容範囲を超えた)」と「tourism(観光・旅行)」を組み合わせた言葉。特定の時間や場所に、観光客が受入許容範囲を超えて来訪することで地域に負荷をかける現象で、「観光公害」と呼ばれることがあるが、「公害」ではない。訪問客の増加によって生じる負荷については、まず生態系など自然環境へのマイナス影響が注目され、マスツーリズムの代替案としてエコツーリズムが提唱された。近年は地域コミュニティとの共存も課題となっている。2010年以降はメディア、SNSによる拡散も大きい。
世界はいま、どうなっているか。欧州運輸観光委員会(TRAN)は「環境」「経済」「社会」の3つに分類。また、UNツーリズムは訪問客と地域コミュニティ、双方にとって持続可能な形でマネジメントと発展がおこなわれることが問題解決につながると提言している。
欧州では「誰でも、いつでも歓迎」ではないと表明するデスティネーションが登場し、旅行者の行き先選びにも影響しているのも実情で、オーバーツーリズムを念頭に、大型クルーズや一定数以上の団体旅行は取り扱わない方針を掲げる旅行会社も出てきている。穴場スポットを旅する 「Under Tourism(アンダーツーリズム)」も注目すべき動きだ。
トラベルボイスREPORTより
ツーリスト税、民泊規制などが進む欧米
具体的に、とりわけ環境意識の高いオランダ・アムステルダムは、2019年の10カ年計画「Perspective2030」で、「デスティネーション・プロモーションからデスティネーション・マネジメントへ」の転換方針を表明。年間のホテル泊数に上限(2000万泊)を設定し、ツーリスト税は欧州トップの12.5%だ。スペインのバルセロナは2028年以降、新たな民泊のライセンスは付与せず、既存ライセンスの更新も行わない方針。マドリードは2024年4月以降、新規ライセンスの発行を一時凍結しており、背景に住宅難や交通難があるといわれている。
アジアのビーチリゾートでも、自然環境の保全と観光産業育成のバランスを探る試行錯誤が続いている。一例として、映画「ビーチ」で大人気となったクラビ県ピピ・レ島のマヤ湾は、2018年6~9月まで、サンゴ礁の保全と回復のため閉鎖され、その後も観光客のマヤ湾及びロサマ湾への立ち入りが禁止となっていた。2022年から両湾への観光客受け入れを再開したが、事前予約制を導入し、人数は制限。生態系保護と観光産業のバランスの在り方を模索している。
トラベルボイスREPORTより
対策パッケージをまとめた日本
日本でもコロナ禍以降のインバウンド客急増に伴い、さまざまな観光地でオーバーツーリズム問題が叫ばれている。国は2023年、観光立国推進閣僚会議で、観光客の集中による過度の混雑やマナー違反への対応、地方部への誘客促進、地域住民と協働した観光振興の3つを柱とする対策パッケージを決定し、総合支援をおこなっている。
地域自身があるべき姿を描いて、実情に応じた具体策を講じるとの考えで、2024年度は先駆モデル地区を選定。農村景観と観光調和、世界遺産の保護を基盤とした観光管理、過密地域の課題解決と分散など、さまざまな方向性で地域の対策を支援している。
トラベルボイスREPORTより
オーバーツーリズムとは何か、海外における対応策、世界と日本の対策事例をまとめた参考URLも必見。調査レポートは、以下からダウンロードできる。