JATA旅行博2013では、業界日セミナーのひとつとして「四位一体(地域+空港+航空会社+旅行会社)の地域ツーリズム」をテーマに議論が行われた。相次ぐLCCの参入、民活空港運営法の成立など空港・航空ビジネスを巡る環境が大きく変化しているなか、地域はインバウンド誘致も含め新しいチャレンジを進めている。そうした現状において、旅行会社にはどのような役割が求められているのか、また今後の地域観光の取り組みはどのように進めていくべきなのか。パネリストそれぞれの立場から内容の濃い意見が出され、議論が進められた。
【パネリスト】
- 大西希氏 鶴雅グループ
- 横田恵三郎氏 トランスアジア航空日本支社長
- 安部雅之氏 JTB旅行事業本部観光戦略部訪日事業推進室長
- 牛場春男氏 PhoCusWright Japan代表
【モデレーター】
- 高松正人氏 JTB総合研究所常務
▼地域観光を支えるインバウンド
LCCとの連携で新しい需要開拓に期待
セミナーではまず、牛場氏が日本の航空政策について説明。オープンスカイやLCC参入が進み、民活空港運営法のもと空港の民営化も今後進んでいくなか、「地域を活性化させるためには、航空会社、空港に加えて旅行会社が関係していくことが必要」と話し、四位一体による取り組みの意義を強調した。
これを受けて、道東を中心にホテルを展開する鶴雅グループの大西氏が地域観光の現状を紹介した。ここ10数年にわたって、航空政策による航空座席の減少にともなって国内旅行の宿泊客も落ち込んでいるという。そうしたなか、「迎えるだけでいいのか、という問題意識のもと、台湾やシンガポールなど訪日需要の取り込みに積極的に関わっていた」と説明。国内市場が縮小していくなか、インバウンド市場での取り組みがカギになるとの見解を示した。
台湾から日本へ新規参入したトランスアジア航空の横田氏は、地方路線への取り組みを説明。「台湾の旅行者にとって日本の地方は大きな魅力になっている」と話し、台湾の旅行者のスタイルに合わせて、2008年から札幌あるいは函館に入り、旭川や釧路から出るオープンジョーを始めたことを紹介した。現在、同航空は上記4都市に定期便を運航するとともに、帯広にもチャーター便を飛ばすなど、主に台湾から北海道へのインバウンド需要に応えている。
JTBの安部氏は同社のDMC(Distination Management Company)としての取り組みに言及し、「観光は裾野が広いため、地域での経済効果は大きい。地域を元気にしたいとの思いを大切に、地域が主体的にかかわるプラットフォームづくりを進めていきたい」と意気込みを話した。地域の宝を磨き、ストーリーをもって商品化して、それを売るサイクルをつくると効果が現れるとし、発地と受地との連携が重要と指摘。また、LCCと旅行会社との関係にも触れ、「地域経済の貢献をビジョンに持つLCCもある。従来の関係ではなく、DMCが企画するプログラムをLCCツアーとして提供できるのではないか」と今後の展開に期待感を示した。牛場氏も、レガシーキャリアは本来であれば、四位一体の重要なステークホルダーだが、採算重視の立場から地域経済への貢献はあまり期待できないとし、「世界のLCCは新しい需要を開拓している。日本でも将来的にLCCが四位一体のひとつになるのではないか」と続けた。
▼地域の連携に旅行会社が貢献
魅力あるコンテンツづくりには地域住民の熱意が不可欠
モデレーターの高松氏は、この議論を受けて、「地域ができること」について問題提起。それに対して、大西氏は「道東が一流の田舎になるために、魅力あるコンテンツをつくらなければならない」と話すとともに、「発信力やマーケティング力をもっと高めていく必要がある」と課題も挙げた。たとえば、釧路から出るパターンから釧路以遠にまで需要を伸ばして、道東での滞在日数を増やしていく魅力づくりの必要性を説いた。また、大西氏は北海道観光振興特別措置法の制定に向けた動きも紹介。若手観光事業者などを中心に、航空燃料税の軽減や免税店制度の拡充に取り組んでいく意向も示した。
情報発信やマーケティングには自治体の働きが欠かせない。横田氏は、台湾の例を挙げながら、「台湾の情報収集力はすごい。日本の地方自治体も路線を誘致できればOKではなく、現地に事務所を構えて、継続的に情報収集や営業を行うことが大切。ネットによる情報発信も毎日更新するくらいの努力が必要になってくる」と話し、航空会社が採算を安定的に確保できる支援体制を構築してく必要性を強調した。
また、横田氏は、「旅行者は周遊する。自治体も点ではなく面でアピールしていくべき」と提言。広域連携の必要性を説いた。これを受け、安倍氏も、九州北部での福岡、北九州、佐賀各空港の連携に触れながら、ネットワークの重要性を指摘した。高松氏は、「地方を広域で結びつけるうえで旅行会社の果たす役割は大きい」と発言。そのうえで、旅行会社に期待するところを大西氏に問いかけた。大西氏はJTBが手がけた『北海道 感動の瞬間100選』を紹介。地元の人たちが気づかないコンテンツを市場に打ち出しているという。「宿泊や航空券の販売ではオンラインが進むなかで、旅行会社ができることは多いのではないか」と話した。
安部氏はこの取り組みについて、「第三者の視点で地元の楽しみを見つけ出した」と説明。長野県阿智村での星空ナイトツアーの仕掛けを例に出し、「素材だけに終わらせず、村のコンセプトづくりから商品化までお手伝いした。地元のコンテンツを育てるには地域の熱意が不可欠」と強調した。
▼空港活性化のテーマは「地域振興」
空港民営化で新しいビジネスチャンス
最後に議論は四位一体のひとつである空港に移り、高松氏は民活空港運営法によって、空港はどのように変わるのかと問いかけた。牛場氏は「民間のノウハウが採用されてコストが削減され、世界一高いと言われている着陸料も下がるのではないか」と民活空港運営法を歓迎。さらに、「空港活性化の大きなテーマは地域振興にある。エアラインが増えれば、人的交流、地域同士の交流も増えていく」と今後の展開に期待を寄せた。
一方、横田氏は航空会社の立場から「民営化されれば、空港とビジネス交渉ができると思う。着陸料、施設料、BHSなどについて交渉できれば航空会社にとってはありがたい。その場合、交渉が折り合わなければ、乗り入れはないだろう」と話し、ビジネス視点での民営化に期待をかけた。また、大西氏は「民営化でさらに便利な空港になれば、地域にとって大きなメリットになるだろう」と続けた。
安部氏は、民営化によるビジネスチャンスについては現在研究中としながらも、「空港と地域の連携は強化されるだろう。空港滞在時間が長くなることが予想され、そうなれば情報発信拠点とともに防災拠点としての役割も期待できるのではないか」との見通しを示した。