読者の皆さんの多くが、「明日の日本を支える観光ビジョン」(以下、観光ビジョン)という名称、あるいは政府が掲げている「2020年までに訪日外国人観光客数4000万人」という数値目標についてご存じと思います。しかし、その最前線の現状について、具体的なイメージはあまりないのではないでしょうか。
今回のコラムでは、私が1年間にわたって観光庁の観光戦略課で業務をおこなった経験を踏まえ、観光ビジョン推進の現状についてお届けします。〔執筆:公益財団法人日本交通公社 総務部 企画創発課 上席主任研究員 菅野正洋〕
観光ビジョンの実行推進体制の「格上げ」
観光ビジョンは、内閣総理大臣を議長とし、関係閣僚が構成員として参画する「観光ビジョン推進構想会議」で2016年3月に策定されました。
つまり、策定は「閣僚級」の意思決定によってなされたわけですが、その後の実行推進は各省の「局長級」で構成される「観光戦略実行推進タスクフォース」(以下、タスクフォース)が月1回程度の頻度で開催されていました。この会議は、設置要項上は内閣官房副長官補が議長となっていますが、実際には毎回内閣官房長官が出席していたことが特徴です。
その後2018年8月、「観光戦略実行推進会議」が設置されました。この会議は内閣官房長官を議長として全閣僚が構成員となっており、タスクフォースを「閣僚級」に格上げした形となっています。
政府としては、観光ビジョンの目標年次である2020年まで折り返し地点を迎えたことを踏まえ、目標の確実な達成に向けて重点的に取り組むべき課題を明確にし、タスクフォースにおいて推進を図ってきた施策等の一層の推進を図ることを意図していると思われます。
タスクフォースと同様に月1回程度の頻度で開催され、議題は基本的に観光ビジョンに記載された各分野に即して設定されますが、2018年夏に自然災害が多発した際には、落ち込んだ需要の回復等も議題になっています。なお、観光庁は同会議の事務局を内閣官房と共同で担い、観光戦略課はその担当課となっています。
観光ビジョン実行推進における有識者の位置づけ
観光ビジョン関係の政策推進にあたっては、観光の現場で様々な経験や知見を有する有識者の意見が重要視されていることが特徴です。「観光戦略実行推進会議」でも、各回の議事に応じて様々な有識者が招聘され、意見聴取がおこなわれます。会議での有識者の提言や発言はその後の各省庁における政策立案や遂行に大きな影響力を与えます。
実際に、タスクフォースの時代には、古民家を活用した宿泊事業を展開する有識者の発言を踏まえ、そのことを検討するためのタスクフォース(歴史的資源を活用した観光まちづくりタスクフォース)が別途設置され、そこでの議論のとりまとめ結果を受けて、旅館業法の改正等の規制緩和につながった例があります。
観光ビジョン実現プログラム
「観光ビジョン実現プログラム」は、観光ビジョンに基づく政府の1年間を目途とした行動計画として、観光戦略実行推進会議における有識者の意見等を踏まえて策定されるもので、観光庁観光戦略課にて取りまとめを担当しています。
毎年3~4月に各省からの施策登録が始まり、調整を踏まえて6月ごろに取りまとめ、公表されます。また、夏には中間フォローアップと併せて各省の次年度予算要求状況が集約され、翌年1月には次年度の当初予算取りまとめもおこなわれます。さらに、年明け2~3月にかけて年間のフォローアップがおこなわれ、その内容は5~6月に公表される観光白書のうち、「前年に講じた施策」のパートに反映されるというスケジュールで年間のサイクルが進みます。
同プログラムの内容は「未来投資戦略」や「経済財政運営と改革の基本方針(いわゆる骨太の方針)」にも反映されるなど、我が国の観光政策のアクションプランとして位置づけられています。
おわりに
観光ビジョンは計画期間5年間の折り返し地点を過ぎ、2018年の訪日外国人旅行者数は3119万人となりました。やや伸びが鈍化しつつも、4000万人という目標達成が視野に入ってきた状況と言えます。その中で、政府では訪日外国人観光消費額8兆円という目標の達成が目下の最重点課題となっています。
今回紹介した「観光戦略実行推進会議」の資料や議事要旨はいずれも首相官邸のウェブサイト内「明日の日本を支える観光ビジョン構想会議」で公開されています。
こちらで議論されている内容を参照することで、観光ビジョンの目標達成に向け、今後どういった取組が重点になりそうか、ある程度推しはかることができると思われますので、定期的にチェックしてみてはいかがでしょうか。
※このコラム記事は、公益財団法人日本交通公社に初出掲載されたもので、同公社との提携のもと、トラベルボイス編集部が一部編集をして掲載しています。