ルーラル・ツーリズムとは? 欧州で進む農村観光の開発、その独自プログラムの仕組みを、観光立国ギリシャの実例から読み解く

欧州で農村開発による観光振興が活発になっている。欧州連合(EU)は、農村開発の助成プログラムLEADER(Links between Actions for Development of the Rural Economy)を展開。加盟国に助成金を拠出し、各国はその資金をもとにさまざまな施策を実施している。

国学院大学観光まちづくり学部は、このほど、欧州のルーラル・ツーリズムをテーマに国際観光シンポジウムを開催。ルーラル・ツーリズムとは、農村の地域資源を活用して展開される滞在型の観光だ。LEADERプログラムは、農山漁村地域開発ツールのひとつとして注目されている。シンポジウムでは、観光が基幹産業となっているギリシャでの取り組みを例に同プログラムを紹介した。そのキーワードは「ボトムアップ」だ。

拡大するLEADERプログラム

LEADERプログラムは、1991年にスタートした。国学院大学観光まちづくり学部の石本東生教授は、「1988年、EUはそれまでの農業政策の反省のうえに、農村社会の未来をまとめた。その中心になったのが、地域に寄り添った地域ならではのボトムアップでの開発。その象徴的なプログラムがLEADER」と説明する。

LEADERは、行政主導ではなく、その地域に根ざした官民共同の開発会社「Local Action Group(LAG)」が担う。

LEADERでは、創設以来、資金額もLAGの社数も拡大。石本教授によると、第一期(1991年~1993年)は、LAG217社に対して総資金額は4億4200万ユーロ(約712億円)だったものが、第6期(2014年~2020年)には、LAGは3136社、総資金額は55億ユーロ(約9326億円)以上と10倍以上の事業規模に拡大した。

今回のシンポジウムで実例として取り上げられたギリシャの場合、LAGは20社から現在50社に増加。各社は各期約1000万ユーロ(約17億円)の助成金を運用しているという。

LAGは、学者、エコノミスト、会計士、都市計画、建築デザイン、文化財保護、弁護士など各分野の専門家で構成されるが、そのLAGが地域の事業を決めるわけではない。ここで重要になってくるのが、LEADERの本質であるボトムアップの意思決定プロセスだ。

2回のプロセスで採択事業を決定

LEADERの新たなブログラム期が始まるにあたって、まず、EU委員会は各国加盟国の農政当局に対して、農村振興プログラムを策定するように指示を出す。ギリシャでは、農業開発食品省が策定。それがEU委員会に承認にされると、農業開発食品省は、方向性、目的、予算などを各LAGに提示し、地域ごとの最適な戦略の策定を指示する。

LAG内で全てを決めれば、意思決定は早くなるが、LEADERの基本はボトムアップ。地域の人たちから聞き取りを行う必要がある。石本教授によると「ワークショップなどを各所で開く。中山間地などな住む人には会場を設けて実施する」という。そこで、地域の需要を吸い上げたうえで、事業の優先順位をつける。ここまでがボトムアップのパート1だ。

各LAGは、地域の需要をもとに策定した地域戦略プランを、再び地域に示したうえで、農業開発食品省に対して予算案を提示する。その後、農業開発食品省はLAGを選定し、予算を承認。選定されたLAGは、地域の事業者、市民団体、文化団体、公共事業団体などに向けて一般公募。そこから事業が採用される。このプロセスがボトムアップのパート2となる。

地域の実情を知るLAGは、申請方法なども含めてそのプロセスで地域の事業者や団体を指導・伴走していく。

ロードス島とクレタ島での助成金の活用事例

ロードス島のLAG「ドデカニス開発会社」は、2007年~2013年の第5期で計約1140万ユーロ(約19億円)の助成金を仲介した。同社のジフォス・コンステンティノス氏によると、最終的に事業者が助成を受けるまで約10ヶ月かかるという。それでも「ボトムアップが民主的な方法で一番大切」と強調した。

例えば、ロードス島では、アクアツーリズム施設「Salakos Rhodes」を支援。2007年~2013年にかけて、事業費に対する助成率50%の22.7万ユーロ(約3850万円)を拠出し、宿泊施設4棟の新設や家具、電化製品の購入などに充てられた。

また、マリンパーク「Bluetopia」では、助成率65%の16.2万ユーロ(約2750万円)で、新型ボート、ダイビング用装備品などを購入した。

また、クレタ島のLAG「イラクリオ開発会社」は、2014年~2020年の第6期で計3150万ユーロ(約53億円)を運用した。同社のタヴラドラキ・アマリア氏は「LAGは、受益事業者と伴走しながら、5年間監視していく。事業の継続的な評価が重要」と話した。5年間で雇用状況や持続可能性も評価。さらに3年後の黒字化も注視していくという。

クレタ島では、クレタ島産ワインの認知度向上と高付加価値化を目指して、ワイナリーを支援。22ヶ所のワイナリーによる「ワインツーリズム」を形成し、観光客の周遊化を進めた。

その結果、クレタ島内のリゾートホテルからの受注が増えたワイナリーや欧米諸国への輸出が倍増したワイナリーが現れたほか、ギリシャ国内の他のワイナリー地域との連携も生まれたという。

クレタ島には年間500万人の観光客が訪れ、ギリシャ全体の観光収入の25%を占めることから、農村開発と観光振興は密接な関係にある。同社のマヴロヤニス・ヨルゴス氏は「LEADERには、ボトムアップアプローチなど7つの原則があるが、その中でも地域とのパートナーシップが一番大事」と強調する。

(左から)クレタ島のマヴロヤニス氏、ロードス島のジフォス氏、クレタ島のタヴラドラキ氏、国学院大学の石本教授。

石本教授は、LEADERについて、「限られた予算で、地域に最大限の効果を生み出すための仕組み。地域の農業だけでなく、伝統工芸や歴史文化なども見ながら、地域産業の高付加価値化に貢献している」と評価する。

公的資金を活用したギリシャの農村開発による観光振興。持続可能な観光地づくり、インバウンドの地方誘客、地方の消費拡大など観光による地方創生に力を入れる日本にとっても参考になる取り組みだ。

※ユーロ円換算は1ユーロ169円でトラベルボイス編集部が算出

みんなのVOICEこの記事を読んで思った意見や感想を書いてください。

観光産業ニュース「トラベルボイス」編集部から届く

一歩先の未来がみえるメルマガ「今日のヘッドライン」 、もうご登録済みですよね?

もし未だ登録していないなら…