カナダ観光局は、カナダ東部の大西洋沿岸に点在するユネスコ認定の観光地を、ストーリーで結んで観光促進する「アトランティック・カナダ ユネスコ回廊」プロジェクトを始動している。カナダ観光局が進める持続可能な観光の新たなモデル「観光回廊戦略プログラム(Tourism Corridor Strategy Program)」のパイロットプロジェクトのひとつだ。カナダがこの回廊プロジェクトで目指すものとは? その内容や目的と、日本市場での展開について、カナダ観光局日本地区の3名に話を聞いた。
回廊としてのつながりが地域の魅力向上に
カナダ東部の大西洋沿岸地域を表すアトランティック・カナダは、ニューファンドランド&ラブラドール州、ノバ・スコシア州、ニュー・ブランズウィック州と、プリンス・エドワード島州から成るエリアだ。この地域は、世界遺産7件、世界ジオパーク3件、エコパーク3件と、計13件ものユネスコ認定サイトが点在し、ユネスコが認めた大自然と文化遺産を巡る特別な体験ができる場所となっている。カナダ観光局は、これらのサイトを「回廊(コリドー)」として結びつけ、地域全体の魅力を最大限に引き出す観光プロジェクト「アトランティック・カナダ ユネスコ回廊」を推進している。
「回廊としてつながることで、点在する観光地の間に新たな魅力が生まれる」と、カナダ観光局日本地区代表の半藤将代氏はその意義を説明する。回廊になることで、サイト間の空白地帯に新しい観光事業が生まれたり、地域全体をつなぐ魅力やストーリーを一貫して発信しやすくなるというわけだ。さらに、回廊上の各地が連携することで、旅行者に次の観光地への興味を引き起こし、異なる季節や地域への観光需要の分散化や、地域間のロジスティクス向上も期待できる。
回廊プロジェクトは、地域の自然や文化に関心が高く、新しい体験や学びを求める「ハイエンゲージドゲスト(Highly Engaged Guest)」の期待にも応える。回廊上にあるまだ知られていない場所との出会いを促し、地域に特有の自然や歴史、人々の営みを紹介することで、より深い旅の体験へと誘う。「旅の入り口は、世界遺産や紅葉、氷山、赤毛のアンといったアイコンがきっかけです。そこから回廊を巡ることで、その土地の自然や歴史、人々との触れ合いが深まり、より豊かな交流と体験につながるはず」と半藤氏は述べる。
カナダ観光局が開発する回廊は、同局の「ウェルス&ウェルビーイング指標」に沿って観光開発が進められている。観光消費額やホテルの稼働率などの従来の指標だけでなく、社会的、文化的、環境的な影響を考慮した、同局が定めた測定基準だ。6つの「E」、すなわち地域経済への貢献(Economy)、雇用や人材育成(Employment)、インフラなどの実現可能性(Enablement)、環境保全や脱炭素(Environment)、地元コミュニティのエンゲージメント(Engagement)、体験やプロダクト(Experience)の側面から持続可能な観光を評価する。ここには、単なる写真映えスポットやブームを作るのではなく、地域コミュニティが観光で豊かになることを目指した再生型の観光地として発展していく、という意図が込められている。
日本市場に向けた展開と旅行会社との連携
「アトランティック・カナダ ユネスコ回廊」の日本市場での展開に向け、カナダ観光局日本地区では「地球の歴史を感じる圧倒的な自然体験」「先住民の地に世界中から集まってきた多様な人々の歴史と文化」という2つの軸を基にストーリーを作り、旅行会社やメディアと協力しながら段階的に取り組みを進めている。
同局旅行業界担当マネージャーの小西美砂江氏によると、氷山やフィヨルドが見られるニューファンドランドは認知されつつあるものの、ノバ・スコシア州やニュー・ブランズウィック州の認知度向上が課題だ。そこで昨年、旅行会社のツアー企画担当者向けのセミナーを実施したところ、ユネスコ認定サイトの多さやその背景にあるストーリーに大きな関心が寄せられたという。日本の旅行者にどうアプローチするか、旅行会社と綿密な対話を重ねながらツアー企画につなげている。
2024年春には、ニューファンドランド&ラブラドール州を舞台にしたブロードウェイミュージカル「カム フロム アウェイ」日本公演を通じて、温かい人々や歴史的背景に触れる機会も提供。このミュージカルは、アメリカ同時多発テロ事件の際、カナダの小さな町ガンダーに緊急着陸した飛行機38機、乗客約7000人が地元住民に温かく迎え入れられたという実話に基づいた作品で、ニューファンドランドのイメージ喚起にも役立ったという。
さらに、日本市場に最適なツアー造成に向け、本国が示すモデルコースをもとに視察を実施。8日間の限られた行程で地域の魅力を最大限に伝えるため、「ニューファンドランド&ラブラドール州」、「ファンディ湾を中心にしたニュー・ブランズウィック州とノバ・スコシア州」の2エリアに分けてツアーを組み立てることを決定。ニュー・ブランズウィック州とノバ・スコシア州の行程は、日本での紹介は初となるが、トロントやモントリオールを経由してハリファックスをゲートウェイに、すでに数社から今年の早い段階でツアー商品が販売されることも決まっている。
2025年のプロモーション戦略
日本市場で「アトランティック・カナダ ユネスコ回廊」のストーリーを広めるため、今年はさまざまなメディアを通じたPR活動を展開していく予定だ。2025年1月下旬には、日経ナショナル ジオグラフィックから、高付加価値の旅行者層をターゲットとしたムック「アトランティック・カナダ 地球遺産を巡る旅 ユネスコ回廊を行く」が発行された。また、カナダ観光局の公式サイト内に、プロモーション動画や旅行会社と共同で開発したツアー商品を掲載する専用ページも公開。さらに、2025年4月から10月にかけて開催される大阪・関西万博のカナダパビリオンでも、アトランティック・カナダのコンテンツを訴求する。
そのほか、テレビ番組や映像コンテンツを通じた情報発信にも力をいれる。前出のミュージカル「カム フロム アウェイ」主要キャストである田代万里生さんが現地を訪れた際の映像をはじめ、旅番組などを活用して魅力を発信する計画だ。同局日本地区のマーケティングを担当するモラス奈津子氏は「テレビからSNSまで多様なプロモーションを展開し、さまざまな場所でアトランティック・カナダを目にする機会を増やしたい」と意気込む。
旅行会社に向けては、今年も現地視察や商品造成支援を通じて、アトランティック・カナダへのツアー造成を促進していく。すでに複数の旅行会社と新たなツアーの開発もすすんでおり、カナダ観光局では今後、新たにツアーを造成する旅行会社にも積極的に販促協力していく方針だ。
地域主導の再生型観光で持続可能な発展へ
この回廊プロジェクトは地域コミュニティが主体となって進められていることが重要だ。「アトランティック・カナダユネスコ回廊」は、カナダ観光局、ユネスコ委員会はじめ国立公園や州政府、先住民など多様な関係者が参加し、観光事業者や地域住民への広範なヒアリングやアンケート調査を実施。ユネスコ登録地のメリットや、10年後の観光経済ビジョンについて議論を重ね、地域とアイデアを共有しながら計画を進めてきた。
半藤氏は現地を訪れたとき、「その土地に愛着を持ち、自分たちの土地での素敵な体験を旅行者と分かち合い、旅行者との出会いを大切にしたいという気持ち」を強く感じたと語る。こういった地域住民の想いで成り立つ観光地には、その場所ならではの特別な体験価値と交流価値がうまれ、それが旅行者の満足度を高める。
世界で再生型・地域主導の観光に注目が集まるなか、カナダの取り組みは他の地域にも参考になるだろう。地方の新しい観光コンテンツが海外からの観光客を引きつけるためには、「しっかりとしたストーリーを構築し、旅行会社と連携して付加価値の高い体験や交流に招く。それは、カナダのあらゆる地域に観光の恩恵を届けることに資するのです」(半藤氏)。この回廊プロジェクトがアトランティック・カナダのコミュティに光を当て、観光を通じて地域を持続可能に発展させ、より魅力的な場所にしていくのだ。
広告:カナダ観光局
- 日経ナショナル ジオグラフィック「アトランティック・カナダ 地球遺産を巡る旅 ユネスコ回廊を行く」
- 特設ページ「そこは物語の舞台 アトランティック・カナダ」
お問い合わせ:morass@wcs.ne.jp
記事:トラベルボイス企画部