エイチ・アイ・エス(HIS)が発表した2017年10月期(2016年11月1日~2017年10月31日)の連結業績は、売上高が前年比15.7%増の6060億円、営業利益が11.5%増の159億円、経常利益が27.2%増の196億円、当期純利益が132億円となり、売上と純利益が過去最高となった。
決算発表の記者会見で、HISがあげた増収増益のポイントは2つ。1つは、利益の2本柱である旅行事業とテーマパーク事業で、欧州テロや熊本地震の外的要因の影響から下半期に回復基調で推移したこと。もう1つは、M&Aの積極展開。3本目の柱となるホテル事業で、期中に子会社化した台湾のグリーンワールドホテル(16軒)が加わったほか、旅行事業ではカナダの旅行会社メリットトラベルや欧州を主軸とする地上手配のミキグループが売上を大きく押し上げた。
例えば、旅行事業の海外現地法人におけるインバウンド事業は、ミキグループ含め31.1%増の987億円に。海外現地法人におけるアウトバウンド事業では、北米中心のメリットトラベル含め44.7%増の628億円となった。
来期の2018年10月期は、売上高が21.3%増の7350億円、営業利益が13.1%増の180億円、経常利益が1.8%増の200億円、当期純利益は24.6%減の100億円を見込む。
売上高は過去最高となった今期をさらに1000億円以上上回る見通しだが、これについてHIS代表取締役会長兼社長の澤田秀雄氏は、今期の増収の追い風となった期中連結の積み増し分が「まだ完全に反映されていない」と説明。特に今期第2四半期からのメリットトラベル、同第4四半期からのミキグループだけで1000億円弱が見込まれるといい、「売上高7000億円は堅い」との見通しを述べた。
澤田氏は、旅行事業、テーマパーク事業、ホテル事業に、HTBエナジーの電力小売や発電、ロボット事業などの新規事業を、4つの事業を将来の大きな柱とする考えも明かした。
2020年に売上1兆円へ、アジア戦略やOTA推進
澤田氏は決算会見で、今後の事業展開の方針を説明。旅行事業では「アジアが世界一の旅行市場になる可能性が出ている。我々もアジア一を目指す。言い換えれば、将来的に世界一になるということ」と述べ、アジア重視の考えを示した。
具体的には、現地発の需要取り込みをさらに伸ばす。そのため、現地拠点を2017年10月期で41か所増の271店舗まで増やしているが、今後は人員数もベトナムやインドネシアで各700人のところ1000人にするなど、さらに増強する考え。
その一方、日本では「店舗の時代は半分終わっている」との見解を話し、店舗戦略は従来の拡充計画から専門店化、特殊化へシフト。代わりに、海外旅行の売上高の26.3%を占めるOTA事業について、「2ケタで伸びており、より強化する」方針を示した。OTA事業全体では現在670億円だが、3年後には1000億円を超える事業とする。
澤田氏は「欧米で起こったことが3.5~5年遅れで日本に来ている。例えば、エクスペディアが日本に来てからアジアに向かう。この流れをうまくとらえて、我々もオンラインを強化する」とも言及。OTAは日本だけでなく、アジアでも「いちはやく展開する」方針。OTA推進のため、AI(人工知能)活用の旅行サービス開発も行なうという。
このほか旅行事業では、法人・団体や国内旅行など、これまで同社では規模の小さかった分野を強化。同時に、重点を置くハワイ・欧州についてもさらに注力。「日本の旅行会社はハワイと欧州を抑えればナンバー1になれる。1位になれば利益率が変わる」のが理由で、ダントツの1位を目指すと力を込めた。澤田氏は同社40周年となる2020年に、売上高1兆円、利益1000億円を目標としている。
最注力分野はホテル事業、運営ホテル販売の可能性も
旅行事業以外では、ホテル事業を「最も力を入れたい」と注力する方針。ホテル数を3~4年以内に100軒に増やす計画の主力は「変なホテル」だ。澤田氏は「ロボットホテルのいいところは生産性が高いこと」といい、ハウステンボスの同ホテルが現在、売上8億円に対して利益が5億円、それ以外のホテルでも約2億円の利益を見込む。
来年にはハウステンボスの同ホテルで、太陽光発電と蓄電池を活用したエネルギーフリーの新棟を建設する計画で、「間違いなく名実ともに世界一生産性が高いホテルになる」と自信を示した。ホテル事業では開発運営だけではなく、「利回りが良ければ販売する」とも述べ、一例として「建設費20億円で販売額35億円、40億円」など列挙。「開発3軒のうち1軒くらい」などの想定を示し、流動性のある事業展開の考えを明かした。
なお、HISでは2017年10月末までに約1700億円、同年11月に250億円の資金調達を実施。今後3期にわたり、毎期500億円ずつの投資を予定する。今期はホテル事業で74億円、M&Aで140億円、熊本県桜町再開発事業で200億円前後(九州産交グループ:19年開業)など。3年間合計1500億円では、熊本県桜町再開事業をのぞき、ホテル事業とM&A、IT関係の設備投資でほぼ3等分の計画だという。
主な事業別の業績は以下の通り。
【HIS 2017年10月期 主な事業別の業績】
- 旅行事業
- 売上高:15.3%増の5368億円
- 営業利益:9.5%増の99億円
- 分野別売上高:海外旅行(記載なし)、国内旅行0.2%減の587億円、訪日旅行37.9%増の159億円、海外現地法人(インバウンド31.1%増の987億円、アウトバウンド44.7%増の628億円)
- その他トピック:海外旅行のチャネル別売上構成比が店舗53.4%(14年比4.6ポイント減)、インターネット26.3%(同2.4ポイント増)、法人団体20.3%(2.2ポイント増)
- ハウステンボスグループ
- 売上高:15.4%増の367億円
- 営業利益:2.7%増の76億円
- ホテル事業
- 売上高:23.7%増の81億円
- 営業利益:37.5%増の7.6億円
- 九州産交グループ
- 売上高:10.0%増の222億円
- 営業利益:531.9%増の5.6億円