米国の人気ドラマ「ホワイト・ロータス/諸事情だらけのリゾート」シーズン3の撮影がタイで始まった。
ホワイト・ロータスという架空のリゾートを舞台にしたこの殺人ミステリードラマは、番組のファンの多くがロケ地を訪れることから、旅行ブームを巻き起こすことでも知られている。この現象は、世界で「ホワイト ロータス効果」と呼ばれている。
タイは、映画やドラマの撮影は大きな観光の宣伝効果となり、観光収入が増えると期待。ペートンターン・シナワット首相は2024年11月、ロサンゼルスでハリウッドの幹部と会談し、外国人映画製作者へのキャッシュバックを増やす計画を発表した。
まだ議会の承認待ちの段階だが、この計画ではキャッシュバック総額に上限を設けず、最大リベートを20%から30%に引き上げる。
タイに限らず、多くの国々が、より安価なサービスと政府資金による財政的インセンティブでロケ地誘致に動いている。カナダ、オーストラリア、イギリスはインセンティブの提供でリードしているが、インドネシア、ヨルダン、モロッコなども、助成金、税金還付、現地での支出に対するキャッシュバックなどの支援を提供している。
タイのキャッシュバックプログラムは2017年に始まった。当初は日本でおこなうとされていた「ホワイト・ロータス」のロケだが、タイは、この制度で誘致に成功したと言われている。
タイの映画当局は、外国映画やドラマへの投資1ドル(約150円)につき2.80ドル(約420円)の経済活動が生まれると推定している。
ロケ誘致にはリスクも
一方で、ロケ誘致にはリスクもある。
2023年に公開されたタイでの誘拐事件を題材にした中国のアクション映画は、中国からの観光客減少の一因になったと考えられている。最近では、タイで撮影されたアップルの広告が、タイを荒廃し時代遅れの国として不当に描写していると批判を浴びた。
2000年に公開された映画「ザ・ビーチ」では、公開後1日8000人もの観光客が、映画のロケ地となったピピ島を訪れた。聖地巡礼で訪れた彼らは、マヤ湾をボートで混雑させ、海洋生物を追い払い、サンゴ礁を破壊した。
タイ政府は、2018年にサンゴ礁修復のためにマヤ湾のメインビーチを一時閉鎖。2022年1月に再開したものの、再びサンゴ礁での遊泳と停泊を禁止し、環境管理のため定期的に閉鎖している。
それでも、フィルムツーリズムの経済効果は絶大
それでも、映画やドラマのロケ地に選ばれることは、観光客誘致で大きな力を持っている。世界的な高級旅行会社ネットワーク「Virtuoso(ヴァーチュオソ)」のグローバルPR担当副社長ミスティ・ベルズ氏は、「エミリー、パリへ行く」ではフランスへの観光客を、「ブリジャートン家の人々」では英国への観光客を増加させたと明かす。
富裕層向けツアーオペレーターのブラック・トマト社によると、マウイ島が舞台となった「ホワイト・ロータス」シーズン1の公開後、米国人のハワイへの旅行予約は25%増加。シチリア島タオルミーナを舞台にしたシーズン2の公開後は、コロナからのリベンジ旅行の影響もあるが、シチリア島への予約が3倍に増えたという。
ベルズ氏によると、シーズン3の公開を控え、バンコクやプーケットなどを含めロケ地への予約がすでに増加しているという。
ロケ地のひとつ、サムイ島の観光協会会長のラチャポン・プールサワディー氏は、バンコク・エアウェイズが同島への1日当たりの便数を50便から73便に増やす計画だと明かした。観光産業は、同島の経済の90%以上を占めていることから、地元当局は空港、フェリー輸送、水道、電力網、道路の拡張について政府の承認を求めているという。
タイでは、「ホワイト・ロータス」による観光ブームは、ロケ地だけでなく、チェンマイなどを含めて全国に経済的利益をもたらすと期待されている。
※ドル円換算は1ドル150円でトラベルボイス編集部が算出
※本記事は、ロイター通信との正規契約に基づいて、トラベルボイス編集部が翻訳・編集しました。