
エイチ・アイ・エス(HIS)は、新型コロナウイルス関連の雇用調整助成金(雇調金)の受給実態について特別調査委員会による報告書を公表した。不正と判断された連結子会社のナンバーワントラベル渋谷に加えて、その他の連結子会社についても調査を継続していた。
報告書では、雇調金などの不正受給があったと認められ、かつ、不正受給について役員による指示(いわゆる経営者不正)があったとする子会社として、すでに不正が明らかになっいたナンバーワントラベル渋谷に加えて、新たにクルーズプラネットをあげた。
また、今回、新たに不正受給があった子会社として欧州エキスプレスもあげた。欧州エキスプレスについては、経営者不正は認めなかった。
故意によらない不適正受給があった会社は、HISを含めて、グループ15社。具体的には、HIS、ツアー・ウェーブ、オリオンツアー、 ラグーナテンボス、九州産交ランドマーク、 九州産交バス、KASSE JAPAN、九州産交ツーリズム、 ジャパンホリデートラベル、エイチ・エス損害保険、 エイチ・アイ・エス沖縄、九州産交リテール、 ミキ・ツーリスト、H.I.S.ホテルホールディングス、 産交バス。
不正、不適正受給の実態
HISにおける不適正受給では、HIS従業員が特別休業日に何らかの業務を行っていたものの、出勤を記録しなかったと推定される日が合計41万3439日(全特別休業日中23.8%)あったことを確認。調査委員会は、特定の部門に限ったものではなく、HIS全体で生じていたと指摘した。
これを踏まえ、HISは、2025年2月10日に緊急雇用安定助成金支給決定の取消分として195万1278円、2月21日には、雇用調整助成金支給決定の取消分の一部として28億8632万7000円、3月19日には雇用調整助成金支給決定の取消分の残額である33億6849万2769円を返還した。
クルーズプラネットについては、社長による特別休業日中の従業員の就業の黙認・指示、社長による特別休業日中のFAMツアーへの参加指示、取締役による事実と異なる勤怠記録の作成指示、店長による特別休業日中の従業員の就業指示があったとして、社長による不正受給の故意が認められるとした。
欧州エキスプレスについては、社長を含む役員からの、特別休業日の就労、または事実と異なる申告の指示は認められないため、雇調金の不正受給にとどまり、経営者不正があったとはいえないとした。
その他のHISグループ会社については、特別休業日中に就労記録をせずに就労した従業員は複数存在したものの、上長から就労の指示を明示的に受けたものではないことから、不適正受給にとどまると認定した。
問題点を整理し、再発防止策を提言
報告書では、HISにおける問題点も整理。労働法規に対する理解不足や不十分な労務管理、雇調金などの受給ルールに対する理解不足、内部監査体制の不備、内部監査体制の不備のほか、グループガバナンスの問題として、全社的なリスク評価や対応上の課題に加えて、グループ子会社に対する情報提供・指導・モニタリング不足を挙げた。
また、ナンバーワントラベル渋谷とクルーズプラネットについては、コロナ禍での売上減少による環境の変化、経営体制などの問題点を指摘した。
以上を踏まえて、報告書では再発防止策を提言。HISの不適正受給については、コンプライアンス意識の醸成、労務管理の徹底、公的な助成金の申請における内部統制の見直し 内部通報制度の周知及び活用の更なる促進を提言した。また、ガバナンスの問題に対しては、リスク評価方法の見直し、子会社に対する管理体制の強化などを加えた。
このほか、ナンバーワントラベル渋谷とクルーズプラネットに対しては、新たな経営体制下でのコンプライアンス体制の再構築、グループガバナンスの問題に対する再発防止策への協力を提言した。
なお、開示が遅れている2024年10月期および2025年10月期第1四半期の決算を3月31日に発表する。