2025年の外資系ホテルの動きを旅行トレンドから考察、「長期滞在」や「体験重視」の旅行者が増えて起きることは?【コラム】

2025年、新たな年が始まりました。今年の旅行者と外資系ホテルのトレンドは、どうなるでしょうか。各社の予測などをもとに推測してみましょう。

ヒルトンが発表した「2025年版グローバル・トレンド・レポート」(2024年9月30日付)では、日本に限らず世界の旅行者の動向が調査されています。日本のラグジュアリーホテルやライフスタイル・ホテルといった高価格帯のホテルに宿泊するのは、いまや過半数がインバウンド(訪日外国人)です。

外資系ホテルが、どんな施設やサービスを展開していくかは、世界の旅行トレンドによって占えるとも言えるでしょう。欧米の旅行雑誌・業界紙でも、日本や東京は世界で最も魅力的な国・都市としてランキングされており、世界旅行のトレンド=日本のインバウンドのトレンドと言ってよいと思います。

インバウンド旅行者は効率的にアクティブ体験

では、インバウンド旅行者にはどんな特徴があるのでしょうか。ヒルトンのレポートでは、2025年は「トラベル・マキシマイザーの年」になると予測されています。旅行者はリラックスと充電を求めながらも、時間と経済的投資を最大限に活用するアクティブな体験を目指すと指摘しています。

図1 2025年の旅行トレンド予測(ヒルトン)

2025年は、「アクティブ旅行(Go Getaway)」が主流で、調査によれば、世界の旅行者の7割が旅行中にアクティブな活動を楽しみ、5人に1人のレジャー旅行者がアウトドアアドベンチャーを計画しているそうです。

かつての海外旅行でも、たとえば南極へ行くといったアクティブなツアーもありましたが、当時の旅行客の多くは、とにかく船で南極に到達すればそれで満足していて、あまり船外へ出歩かなかったそうです。写真を撮ってくるだけで土産話ができるし、「どこかへ行った」という事実が貴重な経験だったのでしょう。

しかし現代の旅行者は、単に観光地を訪れるだけでは満足度が低くなります。SNSの発達で、他人と似たような体験では目立つことができません。「自分だけの体験」「ほかの誰も行ったことのない場所」へと、インバウンド旅行者の嗜好も複雑に進化しているのです。地域とのつながりを重視するライフスタイル・ホテルが増えていることとも符合しますね。

外資系でアクティビティに力を入れている一例が、ザ・リッツ・カールトン日光です。宿泊客向けに朝の座禅や護摩祈祷、写経・写仏体験に日光彫体験、スノーサイクリングから奥日光の星空観察まで、多彩なアクティビティを用意しています。来年以降も、ホテルが特別な体験プランを充実させる動きは、より広がっていくことでしょう。

宿泊自体に満足を求めたり、長期滞在も増えそう

一方で、旅行中に完全なリラクゼーションを求める「ベッドでのんびり(Hurkle-Durkling)」というトレンドも注目されています。スコットランド語で「一日中ベッドで過ごす」という意味で、5人に1人の旅行者がこのような過ごし方を楽しんでいます。さらに、4分の1以上の旅行者が、スパやウェルネストリートメントを活用して、より良い睡眠を求める傾向にあるそうです。

また、「スロートラベル」というトレンドも浮上しています。これは旅行先に長期間滞在し、地元の文化に溶け込むことで、より深い体験を求めるスタイル。2025年には、4分の1のレジャー旅行者がこのスロートラベルを実践する予定だといいます。

この点では、長期滞在に特化した「アパートメントホテル」も増えそうです。すでに国内のオペレーターが手がける案件が増えています。広めの部屋に2段ベッドを入れるなどして、1部屋4~5人が泊まれるので、ファミリー連れや若者の友人連れで宿泊できます。キッチンや洗濯機も配備されているので、家族連れでも便利に使えます。

特に、東南アジアからの旅行客は家族や友人連れで6~8人のグループが多いのが特徴です。そのグループは、親子・孫までの3世代がそろう大家族でも、年齢差が大きくないので、みなまだ若い。インバウンド向けのアクティビティでも、連泊や子ども連れを意識した体験が提供されることでしょう。

シンガポール資本のアスコットが運営するオークウッドプレミア東京には、長期滞在できる「サービスアパートメント」のサービスがあります。また、2024年2月に開業したハイアットのハイアット ハウス 東京 渋谷は、サービスアパートメントに特化した施設です。地元の食材をスーパーなどで調達して、自分で料理して楽しむような旅行者に向けた施設も増加しそうです。

海外客の人気ホテルはすべて外資との関わり

米国の大手旅行雑誌「コンデナスト・トラベラー(Condé Nast Traveler)」が2024年9月に発表した、読者審査による「日本のトップ10ホテル」が以下の表です。

図2 日本のトップ10ホテル

多くが外資系ラグジュアリーホテルであり、日系資本でも外資系ホテルの会員プログラムに加盟していることが特筆されます。知名度を高め、インバウンド旅行者にアピールする意味でも、既存の日系ホテルのリブランドが増えていきそうです。

表では東京、京都の2大観光都市のホテルが体勢を占めていますが、沖縄や日光もあり、京都→富士山→東京の「ゴールデンルート」にとどまらない、全国の地方都市での外資系ホテルの開業がますます加速するでしょう。

2025年には大阪万博が開催されるので、インバウンド向けにも関西エリアが一段と注目されると考えられます。また、北陸地域は、その関西からの距離の近さ(北陸新幹線なら東京からのアプローチも苦ではないですね)に加えて、「古き良き日本」の風情を残しつつ京都ほど混雑していない、といった魅力が海外からも注目されています。外資系ホテルの進出ペースはまだそれほど大がかりではありませんが、周辺からのツアーを含めたアクティビティの面でも、北陸地方が賑わう機会が増えるよう期待したいです。

山川清弘(やまかわ きよひろ)

山川清弘(やまかわ きよひろ)

東洋経済新報社編集委員。早稲田大学政治経済学部卒業。東洋経済で記者としてエンタテインメント、放送、銀行、旅行・ホテルなどを担当。「会社四季報」副編集長などを経て、現在は「会社四季報オンライン」編集部。著書に「1泊10万円でも泊まりたい ラグジュアリーホテル 至高の非日常」(東洋経済)、「ホテル御三家」(幻冬舎新書)など。

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