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静岡県藤枝市は、サッカー観戦による人の流れと地域経済活性化を目指す「蹴球都市藤枝 Next100スポーツツーリズムプロジェクト」実証事業の成果報告を行なった。この事業は、観光庁の「観光DXによる地域経済活性化に関する先進的な観光地の創出に向けた実証事業」の採択を受けたもの。ナビタイムジャパンが観光DXを支援し、地元事業者とともに、サッカー観戦者の市内周遊を促進していく取り組みだ。
2026年度の自走に向けて
このプロジェクトは4つの取り組みで進められている。
まず、来訪者向けには、ナビタイムジャパンが「ぴあ」と共同運営するアプリ「ユニタビ」を活用して、ターゲットに合わせた情報を発信。地域の事業者向けには、LINEを活用したコミュニティプラットフォームを構築し、受入態勢の整備を進めていく。
また、相乗りタクシーなどを活用し、スタジアムへの輸送の効率化と利便性の向上を推進。さらに、地域の教育機関とともに、デジタル人材の育成と活用にも取り組む。
2025年度は、新店舗開拓や新商品の創出を通じて、地域の魅力を向上させるとともに、新たなファン層の獲得を狙う。2026年度には、その好循環をつくり上げたうえで、プロジェクトの自走を目指す。
藤枝市観光協会会長の江崎晴城氏は成果報告会で、「おもてなしが藤枝の最大の観光資源。このプロジェクトは、地元事業者とともに、面でサッカー観戦者を受け入れるもの」と位置付けたうえで、「地域の声を聞きながら、アイデアと情熱で持続的な発展を進めていく」と自走に向けて意気込みを示した。
藤枝市観光協会会長の江崎氏
また、実証事業の舞台となったJリーグ「藤枝MYFC」代表取締役の徳田航介氏は、「(サッカー観戦で)藤枝に初めて来る人も多い。そのチャンスを逃さず、地域にお金が落ちるように、関係者と共にサッカーを含めた観光で藤枝を盛り上げていきたい」と挨拶した。
藤枝MYFC代表取締役の徳田氏
観戦者増加も情報発信に課題
藤枝市観光協会が、藤枝MYFCがJ2に昇格した2023年に観戦宿泊者を対象に周遊状況を調べたところ、「どこにも行っていない」が45%近くにものぼった。藤枝市スポーツ文化観光部観光交流政策課課長の大久保幸廣氏は「これを改善して、弾丸観戦ツアーを打破していく」と話し、プロジェクトの意義を強調した。
藤枝MYFCでの実証の対象となったのは、2024年9月以降の栃木SC戦、清水エスパルス戦、いわきFC戦、ジェフユナイテッド千葉戦の4試合。来訪者向けには「ユニタビ」で地域情報を発信したほか、賛同飲食店のクーポンも配布。藤枝市の観光サイトも一新し、各サイトの情報を統一するとともに、予約動線も設けた。
一方で、藤枝市は来訪者の滞在時間延長を目的に宿泊補助制度を実施。2024年度は予算を倍増し、宿泊(1000円)に地域消費(1000円)の補助を追加した。その結果、全21試合の泊数は862泊、1試合あたりの宿泊は41泊。最も多かったのは、8月24日の土曜日に開催されたモンテディオ山形戦で126泊だった。
しかし、藤枝MYFCの平均観客動員数は2023シーズンの3145人から2024年シーズンは4274人に増加した一方で、宿泊は前年度の全1324泊、1試合あたり70泊を下回った。大久保氏は、地域での体験も含めて、アウェイ(対戦チーム)サポーターに向けて、「まだ情報発信がバラバラだった」と課題を口にする。
事業者側もその課題は共有しているようだ。飲食店「魚時会館おさかな亭」を営む石上忠義氏は「やはり、事前に情報が届いているかどうかが問題。事前発信によって、来訪者の行動がしっかり見えるような取り組みにしていく必要があるのでは」と話す。
また、「大庄水産藤枝店」の佐藤貴志氏は、「宿泊しているのに、助成金制度を知らなかったという人もいるようだ。そういう人たちは飲食店クーポンにもたどり着いていない」と残念がる。
このプロジェクトでは、藤枝駅/スタジアム間の輸送課題の解決も目指している。藤枝MYFCの徳田氏も、特にスタジアム周辺では試合終了後の渋滞など、交通問題が発生していることから、「今、輸送の効率化が一番苦労しているところ」との認識を示す。
藤枝市観光協会によると、実証4試合で相乗りタクシーを利用した人は、往路で計151人、復路で計326人。観戦者数と比較すると利用者は限定的だった。
大久保氏は「価格設定、予約マッチング、決済方法などで課題がある。決済では、予約者1人が来なかった場合などの対応が難しい」と苦労を口にした。一方、新たな解決策として、限られたタクシー台数を効率よく回すために、タクシー待ちの状況が分かるようにライブカメラを導入した。
「ユニタビ」とLINEによる観光DXで一定の成果
プロジェクトで観光DXを担当するナビタイム・ジャパンは、サポーター向けに提供する「ユニタビ」と事業者向けのLINEプラットフォームの活用実績について報告した。
対象4試合の「ユニタビ」利用者数は1964人。利用率は観戦客数約2万5000人に対して8%だった。清水エスパルス戦とジェフユナイテッド千葉戦では、プロモーションによる集客でサッカー観戦初心者が多かったなか、同社スポーツビジネス事業部事業部長の山﨑英輝氏は「ユニタビがターゲットとする層ではない人たちを除くと、比較的いい数字」と評価した。
ナビタイム・ジャパンは、スタジアムでブースを設けて、「ユニタビ」のダウンロード・キャンペーンを展開。1試合平均200~250人が列に並んだという。
また、「ユニタビ」で発行された店舗クーポンは、概算で約600人(推計)が利用した。
するが企画観光局が実施した調査によると、「ユニタビ」を利用した人の1人あたりの消費額は2870円、利用なしの人の2080円を上回った。
一方、事業者向けのLINEでは、キックオフ時間、シャトルバス運行時間、アウェイサポーターの傾向、チケットの販売状況、全来場者数とアウェイ来場者数の予想などを通知。事業者側からは観戦者に向けて営業状況やクーポンなどを配信し、「ユニタビ」に反映させた。ナビタイムによると、4試合で事業者からの情報発信回数は314回となった。
プロジェクトのキックオフ時点では、50店舗の参画を目標にしていたが、「事業者とのより濃密な関係を作ることが重要」(山﨑氏)との考えから、35店舗に絞ってスタートした。
LINEを活用した「おもひで横丁藤枝市場」の渡部普氏は、「元々Xなどで店舗情報を発信していたが、そこに上乗せして発信ができた」と評価。また、佐藤氏は、プロジェクト前は店舗独自の告知のみで限定的だったが、「ユニタビでは、情報を出しやすくなったし、クーポンも提示しやすくなった。近隣である清水との試合では、試合後そのまますぐに清水に帰ってしまうのではと思っていたが、そうはならず、予想を超える来店者数になった」と手応えを口にした。
一方で、佐藤氏は、「客層は高齢者も多いので、スマホだけでなく、ある程度紙媒体での情報発信も残しておくべきではないか」と提案した。
JR藤枝駅の構内。街をあげて「藤枝MYFC」を応援満足度向上でサッカー観戦から観光へ
今後の自走に向けた展望として、山﨑氏は、朝ラーメンなど藤枝らしさを含めた、きめ細かい情報の発信、地域の各関係者が連動した施策、平日や閑散期への集客の仕掛けを挙げた。
このうち、試合やイベントのない平日の集客については、藤枝MYFCのスポンサー企業に向けて福利厚生の一環として日常使いとしてのクーポンを提供するアイデアを示す。「普段サッカーを見ない人でも、それがきっかけでスタジアムに足を運ぶことにつながるかもしれない」との考えだ。
また、渡部氏は、サッカー観戦時にアウェイサポーターの満足度が高まれば、「今度は観光で藤枝を訪れてみようと思う人たちも出てくるのでは」と期待する。
するが企画観光局は、来訪者の満足度も調査。-100から+100の指標で、全体の満足度は-2.4とほぼ中間。試合の面白さが7.8、対戦カードが24.6とプラスになった一方、課題として挙げられているアクセスは-30.8と満足度が下がる結果となった。
同局マーケティング部調査戦略担当主任の瀬戸脇創太氏は「未来に向けて満足度の指標を捉えていくことが大切。再訪につながるだけてなく、他の人への推薦にもつながる」と話す。
藤枝MYFCの徳田氏は、今後の自走に向けて地域との連携がさらに重要になるとの考えを強調する。
現在、J2の藤枝MYFCは、J1昇格を目指しているが、そのためには成績だけでなく、J1クラブライセンスが必要になる。その要件は、スタジアムの規模と質、クラブハウスの有無、財務状況、育成制度など多岐にわたる。J1昇格のためにも、地域が支えるクラブ作りは欠かせない。「蹴球都市藤枝 Next100スポーツツーリズムプロジェクト」で、地域の稼ぐ力とクラブが強くなる力の相乗効果が、今後どのように進んでいくのか、注目だ。
トラベルジャーナリスト 山田友樹