
和倉温泉創造的復興まちづくり推進協議会は2025年3月18日、「和倉温泉創造的復興プラン」を発表した。単なる震災からの復旧にとどまらず、次の世代へつなぐ温泉地として、未来を拓く復興を目指す。
協議会代表の和倉温泉多田屋の社長 多田健太郎氏は、発表記者会見で「和倉温泉は旅館間の連携や世代交代、地域との関係、環境問題など、以前から課題を抱えていた。その中で震災が起きた」と話し、復興プランの背景を説明。そのうえで「まちづくりは、私たちの世代で完成できるものではない。次のまちづくりを次の世代に繋ぐ、持続可能な温泉地として取り組んでいきたい」との決意を表明した。
和倉温泉では、旅館や商店の若手経営者が中心となり、震災発生の約2カ月後に「和倉温泉創造的復興ビジョン」を策定。「能登の里山里海を“めぐるちから”に。和倉温泉」をコンセプトに、「景観」「生業」「共有」「連携」「生活」「安全」の6つの基本方針のもと、自然の循環の恩恵と人の交流による力、和倉温泉の生業などを共鳴させ、すべての人が幸せになれる地域への再生を方向づけた。
今回発表した「和倉温泉創造的復興プラン」は、このビジョンを具体的な取り組みへ推進する「たたき台」として策定したもの。地元関係者や専門家のみならず、地域住民の声も収集して地域の資源と課題を整理。温泉や地域の文化を大切にしながら、和倉温泉ならではのおもてなしを再定義した。そして、新しい和倉温泉をデザインし、「次世代和倉温泉の収益力向上」や「おもてなし都市デザイン」「脱炭素エネルギーによる地域連携」「まちまるごとBCP」など6つのプロジェクトを策定した。
具体的には、和倉温泉内の各地区の特徴に応じて8つのゾーンを設定。浴衣での散策が似合う温泉街や、海の幸を楽しめるシーサイドのプロムナードといった観光地らしいエリア、防災機能を付加したコミュニティスペースを兼ねる展望スポット、新規開業など関係人口を創出し、賑わいの拠点となるチャレンジスペース、スポーツを中心とした新たな過ごし方を生むスペースなどを計画している。これらをつなぐ動線も検討し、自動運転EVバス路線の社会実装も目指す。
代表の多田健太郎氏(多田屋社長)
多田氏によると、和倉温泉旅館協同組合に登録する22軒のうち、営業を再開している旅館は、現在5軒のみ。温泉街の本格稼働にはまだまだ時間を要する。今回の復興プランも2040年を目指す長期計画だ。多田氏は「時間がかかる部分はある」と話す一方、「これからは実装のフェーズ」とも話し、行政や企業に共創による支援を呼びかけながら、取り組みを進めていく。
さらに、和倉温泉のみならず、能登半島に観光周遊を促す、地域観光のハブとしての存在も意識する。能登島、奥能登などの周辺地域と、各地域の復興段階から手を組んで進めたい考えだ。
多田氏は「持続可能な温泉地として、和倉温泉は生まれ変われるという期待を持って取り組んでいる。子供たちへの教育や住民との意見交換など、全員が主役のまちづくりであることを植え付けていく仕組みづくりが、一番大切だと思っている」とも話した。