世界を代表する2つの国際観光機関とは? 「UNツーリズム」と「アジア太平洋観光協会」の取り組みを聞いてきた

太平洋アジア観光協会(PATA)とUNツーリズム(国連世界観光機関/UNWTO)が、先ごろ、これまでの取り組みと2025年以降の活動予定について説明する講演会を日本旅行業協会(JATA)でおこなった。2つの国際観光機関は、現在、どのように活動を進め、日本の観光産業とはどんな関わりがあるのか。それぞれの取り組みについて、講演会の内容をまとめた。

アジア太平洋観光協会(PATA)の活動とは?

1951年にハワイで設立された太平洋アジア観光協会(PATA)の本部は、タイのバンコクにある。日本にも支部をおき、全世界で2万2000のメンバーが会員。政府関係、航空会社、クルーズ会社、旅行会社、ホテル、さらに大学やリサーチ会社、若い学生たちも参加している。PATA本部役員の熊田順一氏は「リサーチとネットワーク、ブランディング、人材育成などの分野で観光産業をサポートしている」と語る。

2024年はタイと周辺諸国で、イベントやネットワーキングを実施した。毎年4~5月に開催される年次サミットは、同5月にマカオで実施。299の組織から455名が参加し、パネルディスカッションやネットワーキングがおこなわれ、その参加者の半分ほどを経営者やマネジメント層が占めた。

2025年の年次サミットは、4月21~23日にかけて、トルコのイスタンブールで開催される予定だ。トルコは持続可能な観光に非常に力を入れており、国がサポートしながら、ホテルのグローバル・サステナブル・ツーリズム協議会(GSTC)への加盟を促している。年次サミットは、こうした現地の知見の共有できる場だ。

2024年夏にバンコクで開催されたPATAトラベルマート(PATA TRAVEL MART)は、日本のツーリズムEXPOジャパン(TEJ)のようなイベント。505の組織、45地域から941名の参加者があった。会場の広さが小さい分、目的をはっきりとさせた議論が特徴だ。

PATAでは、こうしたイベント開催のほか、会員向けにさまざまな情報提供サービスもおこなっている。ウェビナーはほぼ毎月開催し、グローバルメンバーには毎週ニュースを配信する。

PATAが提供する統計データとして、PATAエムパワー(PATAmPOWER)がある。アライアンスパートナーの航空データOAG社やホテルデータ分析STRが提供するリアルタイム情報も反映するデータベースは、マーケットを分析するために非常に有益だ。このデータベース利用を魅力に感じ、グローバルメンバーとして参加している日本企業もある。

日本支部の会員向けのサービスは、まだグローバルメンバーほどでないものの、イベントへの参加や、PATA本部が実施する表彰制度への参加は可能だ。ブランディングに活用できるチャンスもある。熊田氏は、「PATAは50年の歴史を積み重ねてきており、信頼性があるブランドの元に、さまざまなアクションを起こし、提言をおこなってきている。みなさんにも参加してもらい、政府や市場へ声を届けたい」と語った。

UNツーリズムの活動とは?

UNツーリズム(国連世界観光機関/UNWTO)は「責任ある、持続可能で、誰もが参加できる観光を促進することを責務とする国連の専門機関」として活動している。設立は1975年、本部はスペイン・マドリード。160か国が加盟し、500以上の団体が賛助加盟員として参加している。アジア太平洋地域を担当する地域事務所は、現在、奈良県に置かれている。

その活動について、UNツーリズム駐日事務所副代表の大宅千明氏は「持続可能な観光地域経営の普及と活動・理念の情報発信、パートナーシップの構築を主な事業としている」と、端的に説明する。大きな柱は、各国政府の経済活動のなかで観光の優先順位が高まるための働きかけ、観光産業の競争力の向上、持続可能な観光開発の促進。観光の貢献により貧困を緩和、教育機会を提供し、パートナーシップの構築もおこなっている。

こういった活動のためには、裏付けとなる各種データが重要だ。UNツーリズムは、ツーリズム・バロメーター(World Tourism Barometer)という統計データを年4回発表。インバウンドの国際観光客到達数や国際観光収入、アウトバウンドの国際観光支出などのデータを公表し、概要は無料で閲覧できる。

また、UNツーリズムでは、旅行に関する事業がSDGsにどのように貢献できるかを見える化するための指標ツールキット「TIPs」なども開発している。観光はすべてのSDGsに貢献できると考えられ、雇用創出を通じて人々の収入を増やし、農業の成長や女性の社会的地位向上に貢献するなど、さまざまな役割がある。

観光レジリエンス向上への支援も

ベストツーリズムビレッジ(Best tourism village:BTV)も、UNツーリズムが2021年からおこなっている活動だ。農漁村における持続可能な観光地域作りに取り組む、優れた地域を認定するもの。2024年は世界各国から55地域が認定され、日本からは山形県川西町と鹿児島県天城町の2地域が選定され、日本からは合計8地域となった。

BTVに認定されれば、世界各地域との連携が可能になり、情報共有や相互啓発が可能となる。日本側でもBTVの日本モデルを構築し、世界に発信することを目指している。

また、気候変動や自然災害、経済・社会の状況によって大きな打撃を受けるリスク多に対しては、世界各国で「観光レジリエンス」を高めるための取り組みが行われている。観光のレジリエンスは、自然災害や各種の危機発生時の混乱や逆境に、コミュニティや地域が耐え、適応し、回復する能力。2024年11月に仙台で観光レジリエンスサミットが開催されたことは記憶に新しい。

UNツーリズムでは、2024年から2025年の事業計画で、観光レジリエンスの意識を高める活動をおこなう。過去の危機から得た知識・知見の特定・共有、観光危機管理に対する認識の向上、将来の危機に備えるための能力向上・政策立案に係る支援なども予定している。

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